金曜, 21 9月 2012 05:26

イヌワシ狩り

カザフ文化を代表するものの一つに、イヌワシ狩りがあります。日本語では鷹狩りというのが普通ですが、カザフではイヌワシを使いますので、いわば、鷲狩りとでも言うべきなのでしょうか。日本語に於いてイヌワシの"イヌ”とは”下級の、劣っている”を意味します。クマタカの尾羽と比べて矢羽にするには価値が低かったから、このように名付けられているそうです(by wikipedia)。英語名はGoldenEagleと言います。モンゴル語ではブルゲット、カザフ語ではブルキットです。

狩りの目的は毛皮を取ることにあり、獲物はキツネ、オオカミ、ウサギ、マヌルネコなどですが、ヒツジやヤギなどを捕らえることのできるイヌワシもいると言われています。

バヤンウルギーのみならず、新疆ウイグル自治区、カザフスタンにも鷹匠はいますが、バヤンウルギーの鷹匠の数が一番多く、その数は400人以上と言われています(新疆ウイグル地域約50人、カザフスタン約80人)。

本来毛皮猟の為のイヌワシ狩りですので、国際的毛皮市場の縮小に伴い、イヌワシ狩り自体の需要が少なくなって行くにも拘わらず、これだけ多くの鷹匠を擁しているというのは、カザフ人がイヌワシに抱く感情に特別なものがあることを表しているといっていいでしょう。

よい馬を持つことが遊牧民の誇りであるのと同様に、よいイヌワシを持つこともまた、カザフ人には大いに誇るべき事なのです。

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鷹匠は冬の間に目を付けておいたイヌワシの巣から雛を盗み出します。この時、メスを選びます。狩りを積極的に行うのはメスだからです。鳥類のオスメスはヒナの頃は見分けがつきにくいのですが、イヌワシのメスは足が大きいのですぐにわかります。

もしくは、成鳥を捕らえて調教することもあります。見つけたらとことん追い回します。追い回して追い回して追い回し続け、平らな地面に降り立つまで追い回します。すると、飛び立てなくなりますので、そこをカゴで捕らえます。成鳥の調教は難しいのですが、狩りの腕は抜群です。

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調教は夏期に行います。毛皮猟が目的ですから、夏に狩りを行うことはありません。雪が降り始める10月前に調教を終わらせ、冬期にキツネ、マヌルネコ、ウサギ、オオカミなどを狩ります。

狩りには馬で出かけます。騎乗し、バルダックという肘乗せ杖にビアライ(手袋)をした腕をのせ、イヌワシを留まらせます。イヌワシはトゥマガ(マスク)が被せられ、足にはひもが付けられていて、それを握ったままで移動します。

高い岩山を尾根伝いに回り、イヌワシと一緒に獲物を探します。このとき、同行者が山の麓で勢子にまわることもあります。イヌワシが獲物を見つけたことを察知するや、ひもを放し、飛び立たせてやります。イヌワシは獲物めがけて降下していき、アタック直前で一度上空にあがり、一気に降下、その鋭い爪で心臓を、まさに”わしづかみ”にして絶命させます。アタックの際の速度は160kmにも及ぶと言われています。

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イヌワシは人間の元で最後を迎えることはありません。ある程度、狩りを共にしたあとで、自然に帰してやります。ヒナの頃から育て上げたイヌワシが飛び立っていくのをみると、なんとも言えない気持ちになるんだと、老鷹匠は言っています。

文責:NPO法人しゃがぁ 理事長 西村 幹也